夜の回廊

そっと入り込んだシティホールの中は、ゆっくりと時間をかけて炒めた玉ねぎのように、深く優しい飴色をしてる。

高い天井。歩くそばから足音が吸い込まれていきそうな、奥へと伸びる回廊。等間隔に並んでいるランプの明かりは、飴色の壁に、滲むような黄金色を作りだす。「泣き出しそうなときに見える景色と同じだ」涙で霞む訳でもないのに。剥き出した心で見る景色。

広い建物の、回廊をあちこち歩き回り、そこここの扉を開けて楽しむ。彼はそんな私を楽しそうに眺めている。わざと一人、迷った振りをしたくて、遠くまで進んでみる。「私を見つけて」世話のかかる子供、そう思われたくて、もうすっかり大人のわたしなのに、いつまでもあなたのベイビーだから、迷路にだって平気で迷い込む。必ず見つけだしてくれるのを知ってるから。

一枚の、「Archives」と書かれた大きな重い扉をそっと押し開ける。アーカイブって言うんだね。いろんな資料が揃っているんだ、そう、この街の歴史が見られるんだよ。この数ブロック先に長いこと住んでたあなただって、もうすっかりアーカイブと呼ばれるにふさわしいトシじゃない。「ヘイ、大人をからかうのは良くないな」と困った顔をして優しく叱る。それが嬉しくて、また回廊へ転がり出した。夜の探検はいつだってワクワクする。

優しい飴色をした回廊は、夜の静けさに呼応するみたいに、穏やかな沈黙。私と彼のたわいもない会話は、小さな鈴を鳴らすみたいに、優しい回廊をチリチリと転がって行く。

written by 藤沢佳乃

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