時計のこと
  

 男の子の腕時計が、私の手首でぐるりと回る。
時刻は朝の9時40分。
「馴染む」という言葉は、このためにあるのでは
ないのかな。

 ごつごつと堅くひんやりとした
いたずらっぽく笑いかけるようなその冷たさは
あの子の重さを感じるための小さな印。

 この腕には大きすぎる時計がガチャガチャ
回るのも気にせず、青のペンを走らせる。
大切なもの。言葉より先にキスが出る。それが答え。
私はそう思う。

あの子の女の子であること。出逢うことの不思議。
それがごく当たり前な事として訪れる、私の日常。
大きな流れ。蜘蛛の巣のような、幾方向にも
長く細やかに張り巡らされた糸。
それらの糸が私の中に広がっていることを
一粒の雨が、時にそれを鮮やかに証明する。
ひとしずく。

written by 藤沢佳乃

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