滴:しずく

 夜眠る前のほんのひととき灯される、登山用の小さなヘッドランプ。

強く放たれる光の滴は両手に収まりきらずに溢れだし、

毎夜私は慌ててスイッチを切る。月を掴んだらこんな風だろうか? 

 両の手の先をピカピカさせるために、とろんと甘そうな桜色を

熱心に爪の上に落としていく。

10の滴は、美味しいコーヒーをいれるため。バスタブを洗うため。

CDをかけるため。

夜の月が漲っている。青白く尖るように輝く月は満ち

「私達の影」という滴を落としながら、乳白色の光の雨を、眠る森に、眠る街に、

(ベッドへと潜り込むにはまだまだ歩かなければならない)私達の歩く通りの上に

降り注ぐ。

10の滴は、本のページをめくるため。お鍋を火にかけるため。

愛する者の髪を優しく梳くため。

この10の滴で、たくさんのたくさんの滴がこぼれる自分の顔を覆う。

泣かないで。

そしてあなたの滴も私の滴がすくい取る。

 男の温かい背中には、

10の滴がこぼれおちないようにと、必死に、小さく貼り付いてる。

私の背にも、もっと大きな10の滴。

この小さな、ちっぽけな女の子が

指の間からこぼれ落ちていかないようにと、

それは力を込めて抱え込む。

 そっと握りしめられた心。

水を含んだスポンジのように

「お願い」って溢れだす。

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